以下の記事の前に、低位発熱量(LHV)と高位発熱量(HHV)についてはこちら。
発熱量 - Wikipedia
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産業総合研究所・櫻井啓一郎氏の
Keiichiro SAKURAIさんはTwitterを使っています 「水素1kg=33.3kWh(LHV) (33.3-5)/33.3=85% 402x1.6/5.6x0.85= 輸入水素1kgあたり98km走れる。 留意点:輸入からタンク充填までの損失・消費電力の見積もりが大雑把。 (もっと良いデータがあれば、このコメントにぶら下げます)」 / Twitter
で、水素を自動車に利用するならFCV(燃料電池車)ではなく、ガスタービンCC(コンバインドサイクル)で発電しEV(電気自動車)で利用した方が高効率だと主張されています。
(注:いつの間にか元記事が修正されており、この主張も修正されています)
で、ガスタービンCCが高発電効率である根拠として、こちらの資料のP20を示しています。
アンモニア燃料システム状況報告 (pref.aichi.jp)
P20の資料はこれを指すのでしょう。三菱パワーの製品です。
「GT」はガスタービン単体の発電出力で、CCはコンバインドサイクル(GT+排熱利用蒸気タービン)発電出力です。
さて、19頁に発電プラントの出力と発電効率の関係について、GTW 2014 Gas Turbine Handbookから作成した図が示されています。
縦軸のEfficiencyはLHVによるものです。20頁の表で示された製品の発電効率はこれを少し上回る程度ですので、20頁の表の発電効率もLHVによるものでしょう。
実際、三菱パワーのウエブサイトでは、はっきりLHV基準と書いてあります。
発電効率は高位発熱量基準でなく低位発熱量基準で示した方が高くなります。
さて、twitterでは、水素の発熱量1kg=39.4kWhとしています。
水素の発熱量について、こちら
☐ 文献の整理 (jari.or.jp)
では、
LHV:120MJ/㎏ HHV:142MJ/㎏
となっています。MJをkWhに換算すると
LHV:33.3kWh/㎏ HHV:39.4kWh/㎏
になります。ですから、twitterの水素発熱量は高位発熱量です。
twitterの記事は、水素のエネルギーを高位発熱量で示したのに、発電効率は低位発熱量ベースで示しているのです。
twitterでは
FCV
115km走行/充填水素1kg(輸送・貯蔵・充填等の損失は?)
EV ModelS LR
147km走行/輸入水素1kg
ですが、水素発熱量を低位発熱量にして計算し直すと、
147×33.3/39.4=124km/kgになり、FCVとの差は小さくなります。ここまで差が小さくなると、発電所の部分負荷時の発電効率低下、負荷変動そのものに消費されるエネルギー、急速充電時の充電効率の低下、走行時の気温変化による燃料電池、蓄電池の効率変化等々はもちろん、自動車の生産に消費されるエネルギーも十分考慮する必要があるでしょう。
まあ、高位発熱量と低位発熱量の区別という基本が押えられていない提言は無視するに限ります。
(10月3日追記)
いつの間にか、元のtwtterの記事が大きく修正されていますね。水素の発熱量もLHVで計算し直されています。
元記事と同じ計算過程はこちらに残っています。
https://twitter.com/kei_sakurai/status/1440311949217046535