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『ハイオク車にレギュラーガソリンを入れたらどうなりますか?』 ホンダ インスパイア のみんなの質問 (yahoo.co.jp)
「ハイオクガソリンは、レギュラーとは異なる成分のため、発熱量がわずかに大きくなっています。レギュラーガソリン 34.5 MJ/L (低位発熱量では、32.8MJ/L)ハイオクガソリン 35.1 MJ/L (低位発熱量では、33.3MJ/L)出典は、資源エネルギー庁が作成したデータ(エネルギー源別標準発熱量(平成19年5月25日改訂)です。つまり 1.7% ハイオクの方が、出力が大きくなります。」
さて、2018年版の標準発熱量は
エネルギー源別標準発熱量(2018年度改訂)の解説 (meti.go.jp)
プレミアム 31.8MJ/L 42.51MJ/kg
レギュラー 31.25MJ/L 43.1MJ/kg
リッター当たり発熱量はプレミアム>レギュラーですが、kg当たり発熱量はレギュラー>プレミアムです。
リッター当たり燃費ならリッター当たり発熱量に関係すると考えるのが自然ですが、ライター氏はなぜ出力がkg当たりではなくリッター当たり発熱量に関係すると考えたのでしょう? というか、リッター当たりもkg当たりも関係ありません。発熱量は吸気体積当たりで考えるべきです。
燃料をエンジン内部に入れても空気(中の酸素)がなければ熱エネルギーになりません。エンジン排気量が大きいとトルクが大きくなるのは、エンジンという吸気ポンプに吸い込まれる空気量が多くなるからです。ただし、燃料も気体の形でエンジン内部に入るなら、その分だけ空気量が減ります。
仮に、エンジン内部に入る前に燃料と空気が混合されているとします。
メタンとイソオクタンの酸化反応式、発熱量(kJ/mol、低位発熱量)は次の通りとします。
メタン CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O + 801kJ
イソオクタン C8H18 + 12.5O2 → 8CO2 + 9H2O + 5120kJ
仮に空気組成を酸素20%、窒素80%とし、反応にほとんど関係しない窒素を式に加えると
メタン
CH4 + 2O2 +8N2 → CO2 + 2H2O + 8N2 + 801kJ (総モル数は11→11(変化なし))
イソオクタン
C8H18 + 12.5O2 + 50N2 → 8CO2 + 9H2O + 50N2 + 5100kJ (総モル数は63.5→67)
ですから、混合気1モル当たりの発熱量(kJ/mol)は
メタン 801/11 = 72.8
イソオクタン 5120/63.5 = 80.6
気体の温度、圧力が一定なら体積はモル数に比例しますので、吸気体積当たりの発熱量はこの数字に比例します。実際には、イソオクタンはかなりの割合で液体のまま燃焼室に入りますので、イソオクタンの吸気体積当たり発熱量はこれより大きくなります。
天然ガス(主成分はメタン)を使用する自然吸気エンジンの出力が低い理由がある程度理解できると思います。
この計算を(プレミアムガソリンに25%含まれる)トルエン、そしてエタノール、水素について行うと発熱量(kJ/吸気モル数)、モル数変化は
トルエン 81.2 (46→47)
エタノール 77.3 (16→17)
水素 68.3 (3.5→3)
水素エンジンの出力が小さいことがわかります。
ところで、イソオクタンの酸化反応では分子数が63.5→67と5.5%増加し、これは圧力上昇の方向ですが、一方で加熱すべき分子数の増加(温度低下の方向)でもあります。
逆なのが水素で、反応後に分子数が14.3%減少します。
このような分子数の変化、さらには排ガス中の各成分の比熱、比熱比、燃料気化熱を始め、多くの要素がトルク(回転数を乗じて出力)に影響します。ですから、イソオクタン、トルエン、エタノールについては、本計算結果ぐらいの差だけではトルクがどうなるかは分かりません。
なお、文献により発熱量の数値が変わるので、上の計算は「燃料の体積当たりの発熱量で出力を議論することは無意味」を説明するための参考程度としてください。
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