今日は「技術」について思うことを書きます。
ヤマハYZR-M1のクロスプレーンクランク4気筒エンジンについてですが、
http://jfrmc.ganriki.net/zatu/yzr-m1/yzr-m1-fi.htm
で書いたように、URSという先例があります。500ccでサイドカーレース用に製作されましたが、ソロ(サイドカーなしの意)マシンも製作されました。こちらをご覧下さい(ドイツ語です)。
http://www.winni-scheibe.com/ta_portraits/urs_kuhn.htm
クランクの写真をよく見ると、クロスプレーンであることが分りますし、文中に90-180-270-180という数字もあります。なお、上のサイトで、クランクケース(ギアボックスは別体)後方にあるシャフトは動力取出し用でカムシャフト駆動もしており、1次バランサーの役割はありません。したがって、2次慣性力は釣り合いますが、1次慣性力は偶力が残ります。
また、1982年頃にカワサキは市販車用にクロスプレーン+バランサーシャフトの4気筒エンジンを試作しましたが、市販には至りませんでした。排気音が魅力的ではないと判断されたようです。
このように、YZR-M1のクロスプレーンクランクは、エンジンの歴史からすれば目新しいものではありません。私がYZR-M1エンジンを評価するのは、(当り前のことですが)レーシングエンジンとして成功したことです。クロスプレーンクランクエンジンにいくらビッグバン効果(実はトルク変動は少ない)があったとしても、出力があまりに低ければ、レースで勝利を収めることは叶わないでしょう。トヨタも2400ccV8のF-1エンジンについて振動対策としてクロスプレーンV8を試作しましたが、出力でシングルプレーンに劣ることから採用を見送ったのです。もちろん、レーシングエンジンとして成功するためには、出力とビッグバン効果以外にも様々な問題点を解決する必要があります。
似たようなこととして、1960年代のホンダ4バルブエンジンがあります。ホンダが評価されるのは、4バルブがNHKがいうような「世界初」、「前代未聞」だったからではなく、4バルブを採用し成功を収めたためなのです。
もちろん、アイデアを出すことが重要であることは言うまでもありません。しかし、これまであまり成功作がないアイデア、忘れられていたアイデアは、成果が実例で示されているだけに、採用することへのためらいが大きいように思います。そして、どんなアイデアであれ、それを実用化し成功を収めるには大きな苦労が待ち受けているのです。
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