JFRMCブログ 日本馬力 (tou3.com) で書いたように、現計量法、旧計量法(1951年制定)に日本馬力(1馬力=750W)の規定は見当たりません。
さて、物理学会誌15巻9号(1960)の巻頭言(木内正蔵)に次のように書かれています。
「仕事率の単位’馬力’には英馬力,仏馬力,日本馬力(=0.750kW)などがあつて混乱したのであるが,メ ートル法に基づいた現行の計量法ではこれらはいずれもとり入れられず,ワット,キロワット(W,kW)がもつばら仕事率単位に使用されることになつた。ただ廃止される単位にもそれぞれ猶予期間があつて,仏馬力は昭和36年末までは使用できることになつている。これは,毎秒75キログラム重・メートル=735.5Wの重力単位系のものである」(注:計量法施行法には英馬力、仏馬力のみ規定された)
また、諮問 (scj.go.jp)
は旧計量法制定前に「新法に規定すべき計量単位の範囲並にその定義」について商工省から日本学術会議に諮問したものですが、商工省案では効率の単位にキロワット、補助単位にワットと馬力を提案しています。
「キロワットの四千分の三」は「キロワットの四分の三」、「HF」は「HP」の誤りと思われますが、紙の元データをテキスト化するときのミスの可能性もあります。
これらのことからすると
〇旧計量法制定前、つまり度量衡法時代に日本馬力が存在していた
〇度量衡法自体、メートル法、ヤードポンド法も公定法だったので、馬力に3種類存在していた
と思われます。申し訳ありませんが調べきれませんでした。
旧計量法制定により日本馬力は計量単位としては姿を消したのですが、その残滓が今でも残っています。
旧計量法制定前の1950年制定の建築基準法の別表第1に馬力規定がありました。
〇住居地域内に建築してはならない建築物
三 左の各号に掲げる事業を営む工場
(二) 馬力数の合計が〇・二五以下※の原動機を使用する塗料の吹付
(五) 木材の引割若しくはかんな削り、裁縫、機織、ねん糸、組ひも、編物、製袋又はやすりの目立で馬力数の合計が一をこえる 原動機を使用するもの
(六) 印刷、製針又は石材の引割で馬力数の合計が二をこえる原動機を使用するもの
〇商業地域内に建築してはならない建築物
(六) 馬力数の合計が〇・二五をこえる原動機を使用する塗料の吹付
(※商業地域で規制するものを住居地域でも規制する規定が一号にある→住居地域では馬力に関係なく原動機を使用する塗料の吹付事業はできないという趣旨)
そして、これらの馬力規定が1959年4月に次のように改正されます。
0.25馬力→0.75キロワット
1馬力→0.75キロワット
2馬力→1.5馬力
1馬力、2馬力については1馬力=0.75キロワットとして換算されています。0.25馬力が0.75キロワットになった理由はよくわかりませんが、0.25馬力で規制する意味があまりない施設として見直しされたのでしょうか?
1951年に旧計量法、計量法施行法により英馬力は1958年12月31日に計量法上効力を失いました。仏馬力も当初は同日に効力を失う予定でしたが、旧計量法改正により1961年12月31日まで効力延長された後に効力を失いました(内燃機関については再改正により当分の間効力が継続)。
このような時期に建築基準法が改正されたのですが、おそらく多くの法律、政令、省令等で、この時期前後※に統一的に1馬力=0.75kWで改正されたものと思われます。
※この建築基準法の改正は単位の見直し以外の規定の改正もあったので、「ついでに」単位を見直したのでしょう。ですから法律によって改正時期が異なったかもしれません。
また、1968年制定の騒音規制法施行令では当初からワット表示でしたが、0.75kWの倍数のものが見られます。
別表第一(第一条関係)
一 金属加工機械
イ 圧延機械(原動機の定格出力の合計が二二・五キロワット以上のものに限る。)
ハ ベンディングマシン(ロール式のものであつて、原動機の定格出力が三・七五キロワット以上のものに限る。)
(他にもありますが省略)
そんなわけで今でも日本馬力は姿を変えて生き残っているのです。
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