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レーシングマシンについての記事は「その他」にもあります。

クランクシャフト縦置タンデム2気筒

   2気筒・2本クランクシャフトで、2本のクランクシャフトを直接ギアで連結したエンジンとしては戦前のベロセット・Roarerがあります。ただし、クランクシャフトは縦置きですので、一見、普通の並列2気筒に見えます。

Velocette supercharged twin: A second Roarer rises - Old Bike Australasia
 このマシンがタンデム2気筒(クランクシャフト縦置)になった理由は
後輪駆動チェーンの信頼性が低い
シャフトドライブにする。
クランクシャフト縦置きにする
クランクシャフト1本ではクランクシャフトのモーメントが問題になるので、クランクシャフト2本にしてモーメントを互いに相殺する

でしょう。

 クランクバランス率は100%で1次慣性力は完全に釣り合いますが、クランクベアリングの横方向の負荷が大きくなります。

 また、2つのクランクピンは同位相ですので、各クランクシャフトの慣性トルク変動は(向きが異なるだけで)同じですが、360度等間隔点火ならガス圧トルク変動がクランクギアに悪影響を与えたでしょう。

 このマシン、1939年のマン島TTのプラクティスで少し走ったのみで、同年9月の第二次世界大戦勃発、そして戦後のスーパーチャージャー禁止により、レースを走ることはありませんでした。

 しかし、AJSのPorcupine(500cc並列2気筒)は戦前にスーパーチャージャー付で製作され、戦後、スーパーチャージャー無しで再設計されレースを走った(1949年500㏄世界GPチャンピオンマシン)のですから、Roarerが技術的に何らかの問題を抱えていた可能性もあります。





 
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ノートン チャレンジP86(11)

 一般市販車を目指したかのようなマシンが現存しています。

Bonhams Cars : c.1974 NVT 'Cosworth' Experimental Prototype Frame no. none Engine no. none


 クランクシャフト左端からベルトで駆動されるシャフトAの回転数はクランクシャフトの1/2程度のようですので、このシャフトから排気カムシャフトにギアで繋がるようです。この駆動経路はP86レース用エンジンとは全く異なりますし、バランサーシャフトもないようです。


 また、シャフトAの右端には発電機等が配置されているようです。

 エンジン下にオイルフィルターがあり、その前の部品に2本のホースが接続されていますが、水冷式オイルクーラーでしょうか?



 そして、変速機は別体で、ノートン・コマンド850の変速機を左右入れ替えたものようです。ですから、ノートン・コマンド850は左チェーンですが、このマシンは右チェーンです。

 フレームはダブルクレードルで、エンジンがラバーマウントされているように見えます。
  

 このマシン、外観からすると計画の初期段階で試験的に製作されたエンジンを搭載して、エンジン本設計の参考にしたもののようです。

  ただ、このマシンに「P89」と手書きされたアルミ板が貼られていることが気になります。単純に考えるとP86の後のプロジェクトですから、P86をベースに製作された一般市販車用テストエンジン搭載車ということになりますが、P86という変速機一体のエンジンを製作した後で、変速機別体のマシンを意図するとは思えません。ノートン混乱の時期に、手書きのプレートを付けた人が間違えてP89と書いたのでしょうか?







ノートン チャレンジP86(10)


 F750としてのノートン チャレンジP86に対する私の評価を一言で言うなら「これで勝てると思ったの?」です。


1 二輪レースエンジンの出力表記は変速機出力シャフト測定のことが多いが、1973年時点、DFVの1/4で115HP、変速機出力シャフト換算で109HPで勝てるという目論見は、カワサキH2R、スズキTR750が改良されない、そしてヤマハTZ750が登場しないことが前提だった。

2 一般市販車用を考慮したエンジン設計で、109HP(変速機出力シャフト)は出せそうもなかった。

3 二輪と四輪の差を全く考慮しないフレーム構成だった。


 3について補足すると、新しいことに挑戦することを否定しているのではありません。ただ、新エンジンを開発するのであれば、車体は冒険を避けた方がエンジン開発が比較的円滑に進むでしょう。新開発エンジンを新形態のフレームに搭載するのであれば、十分な開発体制を整え、迅速に開発を進め、新形態フレームの是非を見極めるべきでした。

 しかし、当時のノートンには人員、資金の余裕がなく、コスワースもDFVの改良で多忙でした。開発は遅々として進まず、その間にライバルマシンの改良はますます進むこととなり、このプロジェクトは見切りを付けられることになりました。

 








ノートン チャレンジP86(9)

JFRMCブログ ノートン チャレンジP86(3)

で書いたように、このエンジンはクランクシャフトのバランス率をゼロにすることによって、バランサーシャフトで一次慣性力が釣り合う構造です。


 さて、

一次慣性力=質量×クランク半径×(円周率×rpm/60)2×cosθ 

 (θ=上死点からの回転角、クランク半径=ストローク/2)

二次慣性力=質量×(クランク半径/コンロッド長クランク半径×(円周率
×rpm/60)2×cos2θ


です。二次慣性力はcos2θに比例するので、クランクシャフトと同速回転のバランサーシャフトで打ち消すことはできません。

P86(750㏄360度クランク並列2気筒)と500㏄単気筒を次の条件で比較してみます。

〇ストローク/ボア比は同じ→P86のストローク長は500㏄単気筒の0.909倍
〇P86の往復運動部分質量(2気筒分)は500㏄単気筒の1.5倍
〇クランク半径/コンロッド長は0.25で同じ
〇バランス率はゼロで同じ
〇P86回転数/500㏄単気筒回転数=1.3※

 500㏄単気筒の最大一次慣性力(上死点)を1として、500㏄単気筒の一次慣性力+二次慣性力、P86の二次慣性力(一次慣性力はバランサーシャフトで釣り合っている)を求めたのが下のグラフ。


 このグラフでは、500㏄単気筒の方が振動が大きいように思われるかもしれませんが、500㏄単気筒の実エンジンではクランクシャフトにバランスウエイトが設けられるので、例えば、バランス率50%なら一次慣性力が50%打ち消され、横方向にバランスウエイトの遠心力が0.5sinθ(上死点でゼロ、90度回転時に0.5)働きます。振動が散らされたような形ですね。

 ですから、P86エンジンの振動は500㏄単気筒より小さいとはいえないのです。むしろ、P86の振動は500㏄単気筒より周期が短く、一般的だったクレードルタイプのフレームに搭載されたとしても、ライダーには振動が激しいと感じられるでしょう。

 そのエンジンにサブフレームがダンパーなしで装着されていたのなら、車体の振動は激しいものだったでしょうし、ダンパーを介して装着されていたのなら、P86のハンドリングはどんなものだったのでしょうか?




※最高出力発生回転数を500㏄単気筒:7500rpm、P86:9750rpmとして、9750/7500=1.3。コーナーリング中もこの比率が維持されると仮定した。







ノートン チャレンジP86(8)

P86のフレームは、エンジンをフレームの主要部分とし、エンジンの前後にサブフレームを装着したもので、後サスペンションのスイングアームピボットもクランクケースにあります。

The Norton Challenge P86 | Cosworth 746cc Twin | MCNews


  エンジンにサスペンションが生えたような形は、エルフX(後のエルフe)※が有名ですが、P86が登場したのはエルフXの登場(1978年)の前ですので、エルフXの影響ではありません。

※エルフeのエンジンは、当初はヤマハTZ750、後にホンダCB900Fレース仕様になりましたが、エンジンにサスペンションを直接装着できる構造ではないため、エンジン周りにサブフレームがあります。

elf History


 P86がこのような形を採用した理由としてまず考えられるのは軽量化です。そして、当時のF-1カーであれば、ドライバーの着座位置より後はエンジン・ギアボックスが車体としての機能を担うのが普通でした。ですからP86のフレームはF-1の影響かもしれません。「二輪は遅れているから改革したい」ということでしょうか?(邪推)

 さて、レーシングマシンとして見た場合、このようなフレームの弱点として、通常のパイプフレームと比べフレームの主要部分(エンジン本体)の剛性が高すぎ、ハンドリングよくないことが考えられますが、もう一つの切実な問題と思われるのは振動です。

 750㏄並列4気筒、750㏄バランサーシャフト付き並列2気筒の振動対策は500㏄単気筒より楽と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではないのです。

(続く)














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