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レーシングマシンについての記事は「その他」にもあります。

ノートン チャレンジP86(6)(加筆あり)

 P86の出力が計画より低かった理由として、キャブレターの内径以外に次のことが考えられます。

〇従来のキャブレターを使用するため、キャブレターを傾けられず、DFVのように吸気ポートを立てることができなかった。
〇360度クランクのためクランク室内容積変化が大きいが、その対応設計が十分ではなかった。
〇バランサーシャフトを駆動する損失がある。また、クランクシャフトのバランス率が低く(おそらくゼロ)、クランクベアリングの摩擦損失が大きかった。そして、バランサーシャフトの遠心力を大きくしたことにより、ベアリングの摩擦損失が大きかった。

あたりが考えられます。
 一方、当時のスズキTR750(XR11)の最高出力推移は(出典:TEAM SUZUKI by Ray Battersby, Osprey 1982/Parker House  2008)
1972 100HP
1973 107HP
1974 110HP
1975 116HP
 この出力は変速機出力シャフト測定と思われます。
 P86が構想された1973年当時、DFVの1/4の115HPなら日本の2ストローク750(TR750、カワサキH2R)に勝てるとノートン、コスワースは見込んだようです。 

 スズキ、カワサキが改良されず、そして1973年半ばにTZ750の1974年登場が確実視されることがなかったのなら、この見込みもある程度意味があったでしょう。
 しかし、それにしては、P86エンジンの基本設計は一般市販車バージョンを考慮したとしか思えない、妥協の産物のようなものに思えます。これで勝てると思ったとしたら、あまりにも見込みが甘すぎます。
 強力なライバルに勝つためには、次のようなエンジンが必要だったと考えます。
〇180度クランク(センターベアリングあり)
〇ギア駆動1軸バランサーシャフト
〇動力取出しはチェーンではなくギア
〇動力伝達経路はクランクシャフト→クラッチ→(同軸)変速機メインシャフト→変速機カウンターシャフト
〇カムシャフト駆動はギアトレイン
〇シリンダーは30度程度前傾、吸気菅を立てる
〇燃料噴射
 そして、これだけやっても、スズキ、カワサキが改良され、ヤマハTZ750が登場した1974年には明らかに出力で劣ることになったでしょう。
※DFVの出力は英馬力(ヤードポンド法馬力)、スズキの出力は仏馬力(メートル法馬力)と思われるが、その差(1英馬力=1.014仏馬力)は無視した。




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ノートン チャレンジP86(5)

https://classicbike.biz/Norton/Mags/1970s/Cosworth-Norton.pdf

 によるとP86エンジンの最高出力は95HP※だったとのこと。

 この出力を変速機出力シャフトとします。


 1974年当時のF-1トップチームのDFVエンジン最高出力を460HPとしますと、1/4では115HPです。

 変速機等の伝達効率を95%とすると109HPですが、実際の最高出力はこれより13.0%低い95HPです(95HPが前バランサーシャフト測定なら115HPの82.6%)。

 95HPに留まった理由としてまず考えられるのは、DFVは燃料噴射なのに対してキャブレターだったことです。

 P86のアマルキャブレターのベンチュリー径は40mmですが、想定される出力、回転数に対して小さすぎます。


 1973年、ホンダCB125S(125㏄単気筒・OHC2バルブ、1975年のモデルチェンジによりCB125JXに)にホンダRSCのキットを組み込んだエンジンの出力は

 20.8PS/12000rpm(変速機出力シャフト)

で、キャブレターはケーヒンCR31でした。

 この数字を元に、「排気量と回転数」(リンク)、「レーシングエンジン出力の相対比較」(リンク)と同様に試算します。

 CB125Sレースエンジンの出力をP86に当てはめると

86.5PS/8320rpm

に相当し、キャブレター内径は

31×(375/125)1/3=44.7mm

になります。


 そして、当時のDFVの最高出力発生回転数を10500rpmとすると、8320rpmから10500rpmへ26%回転数を高めるためには、キャブレター内径をさらに49mmに拡げる必要があります。


(もちろん、これはベンチュリー部の境界層のことなど全く考慮しない単純計算で、そのまま実エンジンに当てはまる訳ではありません。)

 また、DFVの吸気バルブ径(吸気2バルブ)は34.5mmですが、これは吸気1バルブでは48.8mm径に相当します。ですから、P86のキャブレター内径40mmは、吸気バルブ相当径より小さいのです。

 以上のことから、P86の40mm径キャブレターが出力の制限因子の一つだったことは間違いないと考えます。


 もちろん、40mm径キャブレターを選択した理由として、さらに内径を拡げると適切な燃料霧化特性が得られなかったことも想像されますが、そうならば、それこそがキャブレターの弱点の一つです。


(続く)


ノートン チャレンジ P86(4)

P86のクランクシャフトはこんな形です。

出典 Cosworth-Norton.pdf


 ノートン・コマンド850のクランクシャフト(リンク)カワサキW1のクランクシャフト(リンク)と比べると、P86のクランクのバランス率はかなり低い思われます。


 また、この3機種ではクランクの中央にベアリングはなく、その部分はフライホイールになっています。

 とてもレーシングエンジンのクランクシャフトとは思えません。

 P86のクランクシャフトがこのような形になった理由ですが・・・

一般市販車としての乗り味のために(180度ではなく)360度クランクにする。フライホイールマスも一般市販車の乗り味のために大きくする。

摩擦損失を減らすためクランクベアリングは両端の2か所のみとする。

クランクシャフト回転の空気抵抗(ガス抵抗)を減らすため
・クランクシャフト中央のフライホイールを円形にする。
・クランク両外側のクランクウエブを薄く円形にする。

クランクバランス率が小さくなる。


あたりでしょうか? クランクウェブの形状は空気抵抗低減を意図しているように思えます。


  P86を設計したキース・ダックワースはDFVの設計について次のとおり語っていました。

「私は、常にエンジンの機械的ロスを無視できないと感じているので、DFVではクランクケース内部における空気の流れを合理的なものとするよう、特に努力した。仮に、クランクシャフトのバランス・ウエイトが約75m/sec※の周速で回転しているものとするなら、クランクシャフトの周囲の空気も、それにつれて回転しているに違いない。そこで私は、内部の空気が動きやすいように、クランクケース内面をできる限りスムーズに仕上げることを心掛けた」(オートスポーツ1976-8-15(三栄書房))

※DFVのクランクアーム半径を45mmとすると、10000rpmで47m/sになる。75m/sは非現実的な数字。45m/sの誤記か?

 とはいうものの、低バランス率のクランクシャフトでクランクベアリング、それを支えるクランクケースは大丈夫なの?という疑問があります。

(続く)

ノートン チャレンジP86(3)

 下図は Norton 750 Monocoque/Spaceframe/Cosworth の写真に加筆したものです。

上死点時


 白矢印は各シャフトの回転方向(変速機メインシャフトは図示せず)、黄色矢印は、クランクシャフトの一次慣性力とバランスウエイト遠心力の合力※(2気筒分)、赤矢印はバランサーシャフトの遠心力。
 各矢印はピストンが上死点にある状態ですが、各力は釣合っています。

※バランスウエイトを一次慣性力の50%を打ち消すものとした。

 下図はクランクシャフトが上死点から90度回転した状態。

90度回転時

 2本のバランサーシャフトが互いに逆回転なので、2本のバランサーシャフトの遠心力(赤矢印)だけで釣り合っており、一次慣性力とバランスウェイト遠心力の合力(黄矢印)を釣り合わすことはできません。

 このバランサーシャフトで一次慣性力を釣り合わせるためには、クランクシャフトのバランス率をゼロにする必要があります。

上死点時

 バランス率ゼロなので黄色矢印は一次慣性力(2気筒分)そのものですが、バランサーシャフトにより釣り合わされます。

90度回転時

 90度回転時の一次慣性力はゼロ、バランスウエイトの遠心力も元々ゼロなので黄色矢印はありません。

(続く)

ノートン チャレンジP86(2)

エンジンは、水冷並列2気筒DOHC4バルブ、ボア×ストロークはDFVと同じ85.7×64.8mmで、排気量は747.58㏄※。バルブ挟角は32度でこれもDFVと同じ、と正に1/4DFVです。

※ボア×ストロークについて、出典によって小数点以下第2位まで書かれたものがありますが、1977年MFJ規則書に掲載されたF750公認車両一覧では747.58㏄となっているので、このボア×ストロークとしました。


 現存するマシンの写真。
The Norton Challenge P86 | Cosworth 746cc Twin | MCNews


 エンジンが前後に長い印象を受けます。これは360度クランクを採用したことによりエンジン前後に2本のバランサーシャフトを配置したためです。

 これは Norton 750 Monocoque/Spaceframe/Cosworth にある図に加筆したもの。


 クランクシャフトは前バランサーシャフトをギアで回します。前バランサーシャフトの右端からHy-Voチェーンでクラッチを駆動します(図には書かれていません)。そしてクラッチ→(同軸上の)変速機メインシャフト→変速機カウンターシャフトへ繋がります。ですからクランクシャフトは前方回転です。

 クランクシャフトはカムシャフトにギアで繋がるシャフトをベルトで駆動しますが、同時に後バランサーシャフトを回します。

 当時、このエンジンと同じ

〇360度クランク並列2気筒
〇クランクシャフト前後にバランサーシャフト
〇クラッチはチェーン駆動


のエンジンのバイクが国産車にありました。カワサキ400RS(1974)、カワサキZ750T(1976)です。

 ただし、P86と異なり、
〇クラッチに繋がるのはクランクシャフト
〇クランクシャフトは後方回転
〇バランサーシャフト駆動はチェーン
〇カムシャフト駆動はチェーン

です。

 次に400RSとP86の一次慣性力等の釣合いについて考えます。


 下は400RSのエンジン写真(モーターサイクリスト1974-9)に加筆したものです。

 これはアッパークランクケースを下右から見たもので、白矢印は各シャフトの回転方向、黄矢印はピストンが上死点にある時の一次慣性力とクランクバランスウエイト遠心力の合力※、赤矢印はバランサーシャフトのバランスウェイトの遠心力で、一次慣性力がバランサーシャフト等により相殺されています。

※バランスウエイトは一次慣性力を50%打ち消すものとした。


 クランクシャフトが90度回転すると下図になります。

 一次慣性力はゼロですが、クランクシャフトのバランスウエイトにより前方向に0.5×一次慣性力と同じ大きさの遠心力が働きます。この遠心力もバランサーシャフトによって打ち消されます。

 ところがP86では400RSと異なり、上の図で分るように2軸のバランサーシャフトの回転方向が互いに逆です。

(続く)


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