レーシングマシンについての記事は「その他」にもあります。
これはバルデの1978年型KR250のクラッチ周り。クラッチカバーに小孔が多数開いていますが、このクラッチカバーはKR250が1975年に初登場した時から変更ありません。
また、黄矢印がネジ穴を示しています。このクラッチカバーの外側に別のカバーを取り付けるためのものですが、カバーは装着されることはありませんでした。
これは1980年型KR250で、クラッチカバーに大穴が開いています。
これは1983年に雑誌の取材に供された1982年型KR250のクラッチ周り。このクラッチカバーも大穴型です。
1978年型と同様、使われないネジ穴が残っていることから、小穴型、大穴型のいずれも同じ鋳造型で、鋳造後の加工が異なるだけと考えられます。
大穴型は1979年に初めて姿を見せますが、小穴型も最後まで用いられました。
「使われなかった」といえば写真のアッパークランクケース後上端のフレームマウント部。
601Aの写真でも、このマウント部は用いられていません。
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公表写真の601Aの写真では、このマウント部がブラケットを介してフレームに吊り下げられています。
しかし、1975年3月にデイトナで実戦デビューした601Aではこのマウント部は使用されませんでした。
そして1977年以降、このマウント部は全く使われなくなりましたが、クランクケースに変更が加えられたのに、なぜかマウント部は残ったのです。
前回紹介したオーストラリアに残るKR350。
Team Kawasaki Australia KR350 Prototype – MCNews
これはエンジン単体(エンジン番号:61ES TKA05)の写真。
そして、これは1983年に雑誌の取材に供されたKR350エンジン。
シリンダーヘッドの冷却水ジョイント取付部の少し前(写真右側)のリブがありません。
KR350は1978~82の5シーズンを戦い、その間にはシリンダーポート数・形状等も変更されたでしょうが、エンジン外観はあまり変化していません。
さて、1979年以前のKR250は前後一体のシリンダー/シリンダーヘッドで、1978年型ではシリンダーヘッドのサーモスタットハウジングの位置・形状がKR350と異なりますが、1979年型KR250ではKR350とほぼ同じ位置・形状になり、エンジン外観はKR350に近くなりました。
しかし、依然として次の点が異なります。
〇スタッド前後ピッチ比(既述)
〇シリンダーヘッド右側の冷却水入口のジョイントの(シリンダーヘッドへの)取付角度 350の方が寝ている。
〇排気口上の2つのリブの相対角度(既述)
〇シリンダーの鋳込み文字
250:シリンダー右前・左後に「249CC」
350:シリンダー右前のみに「350CC」
1978年型では、サーモスタットハウジングが識別点に加わります。
(続く)
これは1978年夏頃に雑誌の取材に供された1978年鈴鹿8耐仕様KR350です。
KR250のシリンダースタッドボルトの前後ピッチ比
1975~81年型:1.4程度
1982年型 :1.8程度
ですが、1978年型KR350のスタッド前後ピッチ比は2.4程度です。シリンダーボアが250より10mm大きくなったことに伴いスタッド位置が変更されました。
また、サーモスタットハウジングも1978年以前のKR250ではシリンダー左側中央部ですが、KR350では少し前に移動し、水出口が前気筒の点火プラグ横にあります。もちろん、ハウジングの形状そのものも異なります。
さて、こちらの頁をご覧ください。オーストラリアに残るKR350です。
Team Kawasaki Australia KR350 Prototype – MCNews
また、クランクケースの黄線で囲った部分の4本のリブがほぼ等間隔で並んでいるのに対し、上写真の250では等間隔ではありませんし、下写真のTE601-106(250㏄、左端(写真では下側)のリブはスタッドボルトの陰に隠れている)も、等間隔ではありません。
また、250では赤矢印のリブが大きいのですが、上の350では小さいリブです。世界GPを走った350も同様で、これは1978年のカワサキUKチームのKR350エンジンで、黄矢印が指すリブがその奥のリブより小さいことが分ります。
(続く)
これはジャン・フランソワ・バルデの1982年型KR250エンジンで、スタッド前後ピッチ比が1.8程度になりました。
シリンダーの鋳込み文字は「124.6CC」に変わりました。
RACERS Volume 42 の86~88、92頁掲載のエンジン単体は、スタッド前後ピッチが1.8程度であること、下写真の1982年型のアッパークランクケースと同様に後シリンダー装着部後方の4つのリブが等間隔に並んでいること、シリンダーの鋳込み1文字が「124.6CC」であることから1982年型と分ります。
このエンジン単体のシリンダーについて、記事では「シリンダーのFの文字も後期のものである(シリンダーの仕様はA~Fまでは順番通り、その後M/R/Sと進む)」とあります。
その写真では、前シリンダー/シリンダーヘッドに「F」、後シリンダーヘッドに「R」とマジックペンらしきもので書かれています。前回、紹介した下の1981年型エンジンでは後シリンダーに「R」と書かれています。このF/Rはfront/rearの略で、シリンダー等を前後を別々に管理するためのものです。他メーカー車でも、シリンダー等に気筒番号・記号が記入される例は珍しくありません。
RACERS 86頁のエンジン単体のシリンダーを観察すると前:M-5、後:M-2と刻まれており、これが仕様を表しています。
一方、88頁のシリンダー単体は、スタッドボルトが通る孔の位置が下写真の1982年型よりシリンダー中心に近く、シリンダーの鋳込文字が「125CC」なので、1980または1981年型と分ります。
鋳込み数字の前(写真向かって左)に「?-2」と刻まれています。?は「E」のようにも見えます。
(続く)