レーシングマシンについての記事は「その他」にもあります。
[
27]
[
28]
[
29]
[
30]
[
31]
[
32]
[
33]
[
34]
[
35]
[
36]
[
37]
前回(リンク)書いたように「最高回転数が異なるエンジンのパワーバンドの広さを回転数の幅だけで比較することは無意味」です。
さらに例を出すなら、NR750が9000~16000rpmのパワーバンド7000rmで、マツダ・ロードスター(ND)の1.5リットル4気筒エンジンのパワーバンド1500~7000rpmより「広い」ということは無意味なのです。
マツダ1.5リッター4気筒エンジンのトルク曲線(マツダ技報から引用(縦軸の数値を加筆) )
そこで、NR750(NZ0B、NZ0a?)とRVF750(NW1C)のトルク曲線における横軸の回転数を、各エンジンの最高出力発生回転数に対する比率で整理してみました。
例えば、この比率が0.8なら、実際の回転数はそれぞれ
RVF750(NW1C) 13000×0.8=10400rpm
NR750(NZ0B) 15000×0.8=12000rpm
NR750(NZ0A) 15750×0.8=12600rpm
になります。
整理した結果です。
なお、RACERS Volume.22によると、NW1Cのボアは市販車のボア70mmに対し70.4mmで750㏄を超過していた(レギュレーション適合)ので、グラフ中のMW1Cのトルクは実トルクに70/70.4の2乗を乗じて排気量750㏄に補正した値を表示しました。
この図から、回転数比で見ればRVF750(NW1C)のパワーバンドの広さはNR750とほぼ同じで、パワーバンド内のトルクも大きいことが分ります。
・・・・・・・・・・・・・・・・
なお、回転数比0.48~0.56あたりでは、トルクがNR750(NZ0B)>RVF750(NW1C)ですが、実はNR750の出力チューニングレベルはそれほど高くないことを考慮する必要があります。
「排気量と回転数」で示したように、同一排気量なら回転数、出力は気筒数の1/3乗に比例します。NR750はバルブ、コネクティングロッド数が8気筒と同じなのですから「NRの評価」で書いたとおりこれを8気筒と見なし、NR750(NZ0B)の出力チューニングレベルをRVF750(NW1C)並とするなら(NW1Cの排気量が750㏄を若干超過していることは無視して)
最高出力は134.5×(8/4)^(1/3)=169PS > 155PS(NZ0B公表値)
最高出力発生回転数は
13000×(8/4)^(1/3)=16400rpm > 15000rpm(NZ0B公表値)
になります。つまり、NR750(NZ0B)の出力チューニングレベルは市販車ベースのRVF750に及ばす、逆にRVF750をデチューンすれば、そのパワーバンドはさらに広くなる可能性が高いでしょう。 PR

前回書いたように、先月26日に発売されたRACERS外伝Vol.04中のNR750(NZ0B)と86-87年のRVF750(NW1C)の出力曲線、「ホンダNRストーリー」(山海堂1992)に掲載されたNR750(おそらくNZ0A)の出力曲線の数値を読み取り、これら3機種の出力曲線を再現してみました。
なお、RACERS外伝には縦軸の目盛に数字が入っていません。該当2機種の縦軸数値は私が勝手に推定しました。
まず出力曲線。横軸はrpm/100、縦軸がPS。
そして、トルク曲線。横軸はrpm/100、縦軸がkgf・m。
NR750を語る言葉として「ワイドパワーバンド」があります。確かに上のトルク曲線ではパワーバンドがRVF750より広いように見えます。
しかし、最高回転数が異なるエンジンのパワーバンドの広さを回転数の幅だけで比較することは無意味です。例えば最高速度200㎞(6速時、パワーバンド上限時)の2種のマシンA、Bのエンジンを次のとおり想定してみます。
エンジンA 排気量250㏄ 50PS パワーバンドの幅 15000~10000rpm
エンジンB 排気量400㏄ 50PS パワーバンドの幅 10000~6000rpm
パワーバンドの幅だけ見れば、Aが5000rpm、Bが4000rpmですので、Aの方がワイドパワーバンドです。しかし、6速を維持したままパワーバンドがカバーする走行速度は
A 200~133km/h
B 200~120km/h
になりますので、Bのエンジンの方が幅広い速度域に対応できる「ワイドパワーバンドです。比較すべきはパワーバンドの回転数ではなく、パワーバンドの上限回転数に対する下限回転数の比率で、
エンジンA 10000/15000=0.667→0.333
エンジンB 6000/10000=0.6→0.4
とパワーバンド回転数比はBの方が大きいことが明確に示されます。

先月26日に発売されたRACERS外伝Vol.04にNR750(NZ0B)と86-87年のRVF750(NW1C)の出力曲線が掲載されていました。
NR750レーサーの出力曲線としては、「ホンダNRストーリー」(山海堂1992)に掲載されたものがありましたが、この「NR750」はRACERS外伝からするとNZ0Aのようです。
で、各出力曲線から数値を読み取り、これら3機種の出力曲線を再現してみました。若干、入力ミスがありますので、ここから修正します。
入力したデータをもとに、いろいろ考えてみたいと思います。
なお、RACERS外伝には縦軸の出力目盛に数字が入っていません。該当2機種の回転数毎の出力は私が勝手に推定しました。
ホンダNSR500について見てみましょう。写真は1992年以降のNSR500エンジンです。
シリンダーヘッドの数字が気筒番号で、キャブレターの数字が各吸気口が対応する気筒番号です。ヤマハとは番号の付け方が異なります。
2-3気筒間から動力を取り出すので、キャブレターも2-3気筒間が少し離れています。
1990~91年の180度間隔2気筒同時点火の場合、1-2、3-4番気筒がそれぞれ同時点火で、同時点火のキャブレター吸気口が隣接しています。
1992年に登場した68-292度間隔2気筒同時点火の場合、1-3、2-4番気筒がそれぞれ同時点火ですので、同時点火のキャブレター吸気口は隣接していません。しかし、1-2間、3-4間の位相差は68度に過ぎないため、同時点火ほどではないにしろ吸気を奪い合うことになります。
1997年に登場した「スクリーマー」は点火間隔は180度で、1-4、2-3番気筒がそれぞれ同時点火のようです(参考(リンク))。この場合、同時点火で隣接する吸気口は2-3のみになります。

よく「等間隔点火(等間隔爆発)から同時点火(同時爆発)に変更すると出力が低下する」と言われています。ホンダWGP参戦50周年記念冊子(PDF)中、1990年型NSR500について
「各気筒の点火タイミングを90°ずつずらした、それまでの「90°等爆」から、2気筒ワンセットで180°ずらした「180°同爆」にすると、エンジンの出力ではやや不利になるが~」
とあります。
4ストローク直列4気筒エンジンで同時点火(同時着火)にすると、普通の4-1、4-2-1排気管では排気干渉してしまうので、これらの排気管を用いることはできず、出力面で不利になります。しかし、2ストロークエンジンの排気管は気筒毎に独立していますので、このようなことはありません。
ひょっとしたら、トルク変動が大きい方が出力が少なめになると考える方がいるかもしれません。しかし、V型2気筒より滑らかな回転と一般に思われる直列4気筒は、高回転時の慣性力によるトルク変動が非常に大きいのですが(こちらを参照)、2リッター直列4気筒エンジンが3リッター直列6気筒エンジンよりトルク変動が大きく、出力が後者の2/3を大きく下回るなんて聞いたことはありません。
なぜ、2ストロークエンジンを同時点火にすると出力低下するかといえば、それは吸気系の問題だと考えます。
これはヤマハ0W70(1983年型YZR500)エンジンです。
シリンダーヘッドの数字が気筒番号です。1・2気筒に対して3・4気筒は右(向かって左)にずれています。1-4、2-3がそれぞれ同時点火で、点火間隔は180度です。
キャブレターは2気筒用一体で、スロットルバルブが収まる部分に対応する気筒番号を白数字で記入しています。そして、青線、黄線で結んだキャブレターがそれぞれ同時点火気筒に対応します。
これで分るように、2-3気筒のキャブレター吸気口が隣接しており、その周囲の空気を2つの吸気口が同時に奪い合うことになります。また、キャブレターのベルマウス部が隣接する部分は、ベルマウスの効果も少なくなります。
さらに1992年シーズン後半以降、ヤマハ500㏄4気筒エンジンは90-270度間隔点火になりますが、1-3、2-4番気筒が各々同時点火と思われます。いずれも同時点火の吸気口が隣接するので、180度間隔同時点火より吸気への悪影響が大きくなります。