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レーシングマシンについての記事は「その他」にもあります。

ヤマハ250/350cc市販レーサーのクランクケース(11)

 これは72年のヤマハRX350(R5)のロワクランクケース左側のクランクシャフトが収まる部分です。

 この写真のベアリング保持部にどれだけの力が作用するか考えます。ピストンのストローク54mm、コンロッド長108mm、回転数10000rpmとすると、慣性加速度(1次+2次)は上死点3773G、下死点2264Gになります。最大2次慣性加速度は最大1次慣性加速度の25%の大きさで、その向きは上死点では1次と同じピストン方向、下死点では1次と反対でピストン方向です。クランクシャフトのカウンターウエイトを1次慣性加速度の50%釣り合い相当とし、これを差し引いた後の慣性加速度は上死点で2264G、下死点で755Gになります。これに燃焼室ガス圧による加速度が加わります。上死点では2264Gを打ち消す方向ですが、10000rpmからスロットルを大きく戻した状態では燃焼室ガス圧が大きく低下しますので、2264G×(ピストン~コンロッド質量)の力が瞬間的にクランクケースのベアリング保持部にかかることになります。ヤマハ2ストローク250/350cc並列2気筒なら1気筒あたりクランクシャフトメインベアリングが2個ありますからベアリング1個当たりの力はこの1/2です。
 ですから、ベアリング保持部の硬さ、強度、剛性が重要で、上の写真を見ると、アルミ合金製のクランクケースのこの部分に別素材が嵌められている、というより鋳包みされています。2ストロークエンジンのクランクケースで普通に見られるものです。

 これについて、CLASSIC MOTORCYCLE RACE ENGINES by Kevin Cameron, Haynes North America 2012中、TZ350についての記事では、"Production crankcase were made with cast-in-place iron saddles to support the crank bearings, but the racing case was all-aluminum~" ということです。

 ただ、TZ250/350の76年以降のクランクケースを見ると、クランクベアリング保持部に鉄ライナーが鋳包みされているように見えます。これは79または80年型TZ250のアッパークランクケースの左側のベアリング保持部。


 残念ながら72TD/TR、73~75TZのこの部分の写真がありません。仮に英文が正しいのなら、クランクケース鋳造工程そのものに差があることになります。
 そして、ベアリング保持部への鉄ライナーの有無であれば、より硬さ、剛性、強度が必要な市販レーサーに鉄ライナーを入れるのが当然なのに、市販レーサーにライナーが入って市販レーサーにライナーが入らないなら、市販レーサーのクランクケースのアルミ合金、熱処理(有無を含めて)が違うのではないかという疑問が浮かび上がります。

 仮に英文が誤りだとしても、こちら(リンク)で紹介した76年の雑誌記事「クランクケースの強度もRXとTZでは異なっている~」からも、DX/RXと72TD/TR・73~75TZのクランクケースのアルミ合金、熱処理(有無を含む)が異なっているのではないかという疑問が起きます。クランクケースの外観等に大差ないのに強度が高いのなら。

 上の計算例から分るように、クランクケース左右の片側に上方向に2264G×(ピストン~コンロッド質量)、もう片側の下方向に755G×(ピストン~コンロッド質量)の力が加わるのですから、クランクケースそのものの剛性、強度も重要なのです。
 2ストロークエンジンのクランクケースがどうしようもないものだと、高出力で信頼性の高いエンジンになりえません。

(続く)
 

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ヤマハ250/350㏄市販レーサーのクランクケース(10)

 実は73~75TZのクランクケース形状がよくわかりません。現存するマシンではレストア、リビルドの段階で他機種・年式のクランクケースを流用しているものもあるでしょう。そもそもレーシングマシンではエンジン積替えが実戦時に行われるのが常ですから、現役を退いた段階でオリジナルのクランクケースでなくなっていることは珍しくなかったと思います。

 このTZ350もフレーム番号からすると74年型のようですが、


アッパークランクケース左上面の形状、


クランクケース左後下の赤矢印のリブの形状、
 
そして、クランクケース右前端に使われないネジ孔部分があること(写真なし)からすると、クランクケースは76年~TZのものではないかと思われます


 ただ、クランクケースの部品番号はTD/TRと73~75TZで共通です。そして、TD/TR、そしてTZプロトタイプというべき72年のYZ634/YZ635の幾つかの写真からすると、TD/TRと73~75TZのクランクケースは共通のようですし、上のアッパークランクケース左上面の形状、クランクケース左後端のリブはTDでは見られないのです。

 これらと一般市販車DX/RXのクランクケースは酷似しており、前側フレームマウント部の違い、そして、前回書いたベアリング保持部の溝(サークリップが嵌る)の違いは鋳造後の加工によるものでしょうから、DX/RXとTR/TR・73~75TZのクランクケースの鋳型は同じではないかと思われます。

 
 では、DX/RXとTD/TR・73~75TZのクランクケースの違いは鋳造後の機械加工の差だけなのでしょうか?
(続く)

ヤマハ250/350cc市販レーサーのクランクケース(9)

   一般市販車と市販レーサーの鋳型以外の違いについて触れておきます。クランクケース前側のフレームマウント部分の違いはすでに書きましたが、クランクケース内側にも機械加工の違いがあります。

 パーツリストを見ると、クランクシャフトをクランクケースに組み付ける時に用いるサークリップの数が、一般市販車と市販レーサーで異なります。一般市販車は右端に1つなのに対して、市販レーサーは75年までは両端に2つで、76年以降はクランク中央のラビリンスシール両側の2つが加わって4つになります。

 これは76年以降のRD400。

 赤矢印がサークリップが嵌る溝で、ロワクランケース上端(アッパークランクケースとの接合面)にも溝が達しています。この溝の外側にもう1つ溝がありますが、オイルシールの一部が噛み合う溝です。72年のDX/RX、73~75年のRDも同じです。

 この溝に加え、72年のTD/TRではクランクケース左にも溝があります。下写真ではクランクシャフト左端のベアリングがあるので分りにくいですが、ロワクランクケース上端に溝が達しています。


 これは73年型TZ350。写真右側がクランク右側(クランクギア装着側)です。TD-3と同様にクランクケース左側のベアリング保持部に溝があります。


 この2本の溝に加え、76年以降のTZでは中央部に溝が2本(計4本)あります。
(続く)

ヤマハ250/350cc市販レーサーのクランクケース(8)

 一般市販車では1976年にクランクケース内部形状も変わりました。
 これは73-75年のRD。


 これは76年型のRD400。

 赤囲みのボルト孔が追加されて、青囲みの孔の形状が変わっています。他にも変化している部分があります。
 なお、外形でも黄色部分が追加され、
黒囲み部分のリブが高くなっています。黄色部分は前回紹介しましたが、黒囲み部分は下(これはTZ)のクランクケース右側の黒囲み部分でリブが高くなっています。

 
この外形変化は76~のTZでも同様に見られます(確実に76年型からとは言い切れませんが)。なお、黄色部分はないものもあります。元からないのか、実戦時に切断したのかはわかりません。

 内部形状に話を戻すと、上のような内部の変化はTZでは見られません。ですから、76年以降のTZとRDのクランクケースは内部形状からも鋳型が異なることがわかります。
(続く)

このマーク

 あるクランクケースのこのマーク、神戸製鋼でしょうか。

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