レーシングマシンについての記事は「その他」にもあります。
かつて、マン島TTレースの公式練習時、最高速測定がハイランダー地点の0.1マイル区間(160.9344m)で行われていました。
どんな場所かは、この車載カメラの映像の2分10秒あたりからご覧ください。
2分56秒ちょっとで、道路の右側にある白い建物がハイランダーです。
これは1967年の測定結果です。
太字が4ストローク、他は2ストロークで、machine欄の数字は気筒数です。
250㏄のアイビーの速度が際立っており、350㏄クラスより早く500㏄トップのヘイルウッド(ホンダ)に迫る速度です。
125㏄のアイビーの速度も排気量差からすると、同レベルといっていいでしょう。
ただ、マン島プラクティスでの最高速は普通のサーキットでの最高速とは異なる次の要素があります。
●1周60.7kmもあるため、公式練習は「コースに慣れる」が他のサーキットより大事。抑え気味で走行している比率が他サーキットより大きいと思われる。
●公式練習は125~500㏄の4クラス(だったと思う)混合で行われるため、直線でのマシンによる速度差が大きい。映像で分るようにコースは狭く、しかも走路が少し曲がる箇所もあるため、ライダーは普通のサーキット以上に前をよく見る必要があるし、速度を落とさざるを得ないこともある。
●ライダーは胸を燃料タンクに着けるような伏姿勢は取りにくいと思われる。
なお、おそらくホンダ500㏄4気筒はモンツァやスパ・フランコルシャンであれば260km/hを超えていただろうと思います。
前回、「直線距離1.8km程度のサーキットにおける、120~125PS※のレーシングマシンの当時の最高速(無風状態)は280km/h前後だったと思われます。」と書きました。
で、次のように仮定して真の最高速がどれくらいか考えます。
●直線に入って全力加速開始時の速度200km/h
●出力122PS
●直線での平均出力115PS(回転数が変化するので)
●出力伝達効率0.87
●後輪平均出力=115×0.87=100PS
●バイク重量225㎏(水、オイル、燃料、ライダーを含む)
さて、
バイク加速の仕事率=後輪平均出力 ー 空気抵抗相当出力 ー 転がり抵抗出力
です。何回も書いたように、空気抵抗(力)は速度の2乗に比例して増大し、空気抵抗に相当する出力(仕事率)は速度の3乗に比例します。ですから空気抵抗相当出力は速度上昇と共に加速度的に増大します。
一方、ころがり抵抗(力)は計算上一定とします。したがって転がり抵抗に相当する出力は速度に比例します。
これらのことから200km/hから1km/h毎の加速度、走行時間、走行距離を求め、走行距離を積算します。
仮に真の最高速を284km/h、その時の
空気抵抗相当出力:転がり抵抗相当出力=19.7:1
として、次のグラフを作成しました。
横軸が速度、左縦軸が走行距離、右縦軸が加速仕事率です。
速度上昇に伴い加速仕事率が大きく低下し、(図にはありませんが)加速度はそれ以上に大きく低下します。280km/hまでの走行距離は1420mとなり、前提となった直線距離1800mに近い数字なりました。
そして、
真の最高速を290km/hとすると、280km/hに達する距離は1050m
真の最高速を300km/hとすると、280km/hに達する距離は809m
となり、前提直線距離1800mと乖離してしまいます。
ですから、このマシンの真の最高速は284km/h前後ではないかと推測します。
1981年型以前のヤマハYZR500の袋井テストコースでの最高速は次のとおり。
エンジンテクノロジーNo20(2002-5月、山海堂)中の記事(塩原正一(ヤマハ))から1981年型以前の数値を切り出したものです。
最近の袋井テストコース。
ストレート(右上から左下に走る)の長さは1.6km程度ですが、最終コーナーの半径は250m程度、第1コーナーの半径は600~700m程度と思われるので、実質的な直線長はポール・リカール(1.85km程度、下図)を少し上回るように思います。
下写真で分るように、現在はストレート終わりにシケイン(下側矢印)が設置されています。また、その手前にも細いシケインらしきもの(上側矢印)もあります。
出典では1983年にコース改修、1988年にシケイン増設とありますが、過去の航空写真を見ると、シケインの位置、形状は何回か見直されているようです。しかし、1981年以前は(少なくとも)最高速に影響するような改修は行われていないようです。
前回紹介した1977年、1980年のポール・リカールでの最高速は次のとおりで、上の袋井テストコースでのYZR500の最高速とほぼ同じ数字です。